物語は1960年代、アメリカのブロークバックマウンテンで、安い賃金で雇われる季節労働者としてカウボーイをするイニス(ヒース・レジャー)とジャック(ジェイク・ギレンホール)が出会ったことからすべては始まります。山奥でたった二人で働く彼らに与えられた仕事は羊の群れを守ることと、食事を作ることだけ。最初はほとんど話をしなかった二人も、やがて毎日同じ事を繰り返す単調な日々のことや雇い主に対する不満、将来に対しての不安が押し寄せてくることになどを話しているうちに、だんだん打ち解けあうのです。そして冬の寒気の訪れとともにテントに片寄せあった時、二人は求め合うように愛し合ってしまうのです。二人は男同士と言う罪悪感にさいなまれ二度と同じ過ちを繰り返さないことを口では約束するのですが、それからも二人の蜜月の日々は続いていくのです。そして山を降りなければならない時期になり二人は別々の人生を歩むことになるのですが、この山で起こったことは夢の世界の出来事と思うことにして、それぞれの普通の生活に戻っていくのです。
やがて月日は流れ結婚し子供を育てる父親にもなるのですが、なにか物足りないような人生を送るのです。そして久しぶりに再会をした二人はあの時を思い出したかのように、人生の中で足りなかったものを見つけ出したかのように、世間の目から隠れながら激しく相手を求め合うのですが、その現場を妻に見られてしまうのです。そのことを知らない二人はその後何度も会う約束をするのですが、その光景を見るたびに妻は人にも相談することもできず、夫を問い詰めることもできず、心の中にやりきれないものを押し込めるのです。そして…。
この映画では二十年にもわたる恋の物語を画いているのですが、正直なところ主人公の彼らの演技では役不足という感じがあるのです。出合った頃のブロークマウンテンで過ごす若かりしの時代の演技はうまく画けているのですが、物語の後半になり彼らの子供は成長していくのに、40代になった二人は20代の面影を残したまま成長していないような不自然な演技しかしていないのです(監督が意図した結果かもしれませんけどね)。
それに対して女優の二人がすばらしいのです。彼らの秘めたる情事を見つけてしまい思い悩む“ミシェル・ウィリアムズ”さんの驚きの表情や思い悩む演技には助演女優賞をあげたいくらいです。そして“プリティ・プリンセス”の“アン・ハサウェイ”さんがヌードになっていたことも評価すべき点です(おいおい)。
そしてこの映画を見ていて受け入れがたかったところが、二人が恋に落ちた理由なのです。
例えば崖を上っている所でいきなりロープが切れてしまい転落しそうになったところを「ファイト!いっぱ〜つ!!」と言って助けられた瞬間、彼らは恋に落ちてしまった!というような衝撃的事実もなく、まるでリビドーに押し流されてしまい性処理をするように愛し合うことから、二人の恋の物語が始まってしまうのです。
そんな不純な動機で始まった恋は、楽しかった学生時代へのノスタルジーのようにブロークマウンテンでの出来事への郷愁で、20年にもわたる秘められた思いを貫くのです。。年に数度しかあえない二人はまるで長距離恋愛のように、会えた日に今まで溜め込んだものを爆発させ愛し合うのですが、不純に始まった恋は時を経てやがて精神的に結びついた純愛になるのです。よく恋愛に対する障害が多ければ多いほど愛が深まるといわれますが、それを見事に表現しています。
この映画のゲイになってしまったシーンには理解しがたいものがあったのですが、その後の二人で画かれる、男の女々しさや逃避行の恋、愛というものに心を動かされる人に男女区別は無いことを、見事に表現した映画だったと思います。
ブロークバック・マウンテン プレミアム・エディション
